2005年秋の渓流から


平成17年9月9日金曜日の夜8時に春日部を出た私達の車は、久喜ICから東北道に乗った。交通量も宇都宮を過ぎる頃から少なくなり、対向車線の東京方面は、黄緑や青の電飾を付けたトラックが次々に上ってくる。魚介類や農産物などのみちのくの物資を大消費地、東京に運んでいるのだろう。

日付が変わる頃、車は古川ICで高速を降り、鳴子温泉を通り、瀬見温泉を経て真室川町を流れる鮭川に出る。この川の支流の一つ、西川が目的地だが、川のほとりのいつも車を止める場所にはすでに1台の車が止まっていた。この川で車を止められる場所はここしかないので、その中には夜明けまでの仮眠を貪る釣り人がいることは間違いない。折角ここまで来たが、別の釣り場を探さねば。

車は国道13号線を北上して主寝坂トンネルを通り、秋田の湯沢市(旧雄勝町)に入った。このあたりの最大の河川は役内川で、その支流の雄勝川が国道沿いに流れている。我々はこの雄勝川の支流の一つでやることにした。

午前3時、林道にある車止めの手前に車を止め、仮眠を取ることにした。10年前は仮眠も取らずに、すぐに釣り場へと向かったものだが、最近は仮眠を取ることが多い。年齢的に無理ができなくなってきているのだろう。漆黒の中で、暫し寝る。

周りが薄明るくなった頃、我々は釣り支度をして林道を歩き出した。

川沿いの林道


この沢はすでに何回もきているので、どこがポイントかは熟知している。30分近く歩いてから、いつもの場所で竿を出した。私は、今回はフライでやることにしていたので、3番のロッドに6Xのリーダー、フライはエルクヘアカディスの18番を結んだ。

プール ここに岩魚がいる


プールの一番手前からフライを流す。周りの木の枝にひっかけないように注意ながらキャストし、着水後ゆっくり引いてくる。ビシャ! 水面を割って岩魚が飛び出した。すかさず竿を立ててラインを引く。20センチちょっとのきれいな岩魚だった。

フライにきた岩魚


この沢には、車を止めたところから上流に3箇所の堰堤があり、いずれも好ポイントになっている。特に3番目の堰堤では、かつて36センチを釣り上げている。堰堤ではフライは不利なので、餌釣りに切り替える。餌は市販のミミズで十分だ。
できるだけ大きなミミズを選び、8号のヤマメ針にチョン掛けする。すぐにググッとあたりが来るが、すぐには合わせず、送り気味にしてから聞き合わせする。型は小さいものの二人で数尾ずつ釣るが、尺を超えるものは出ずにすべてリリースした。

堰堤


この沢の魅力は魚影が濃いということだけではない。遡行中の沢の中や林道沿いの山の中で、豊富な春の山菜、秋のキノコが楽しめる。釣りが終わった帰り道には、マタタビの実やスギカノカ、ボンボリッコが待っている。

マタタビの実 ボンボリッコ みずの実 スギカノカ

スギカノカはスギヒラタケのことで、朽ちた杉の木に生えるが、、昨年これを食べた人が亡くなるという事故が秋田で起きた。我々はもう10年以上食べているが、特に支障を生じていない。昨年もたくさん食べている。このキノコはダシがよく出るので、みそ汁、煮物などにぴったりで、昨年までは地元の人達もよく食べており、土産物としても売られていた。しかし、今年は事故の報道のせいかははっきりしないが、どうも手をだしかねているようだ。
例年だと地元の人達が採った後に採ることが多いので、少ししか採れないが、今年はどこでも大量に採ることができた。どこでもほとんど手つかずで生えていた。持ち帰ってみそ汁に入れたりして家族で食べているが、何も起きていない。

秋田では、秋宮温泉の太郎兵衛を定宿にしている。菅さん一家が経営している温泉旅館で、きさくな家族のもてなしと季節の山菜を楽しむことができる。温泉につかって長旅と釣りの疲れを癒した後は、この宿代でいいのか、と思うほどの料理が待っている。早朝から活動しているので、夕飯は6時頃から始まり、7時過ぎには寝入ってしまう。

温泉旅館 太郎兵衛


秋田は9月21日までで禁漁になるので、翌々週の釣行は山形の沢を狙う。小さな沢でブッシュもきついので、フライをあきらめ餌釣りに徹する。私の釣りは、釣り方にこだわらず、場所に応じた最も効果的な方法をとる。バックキャストが取れなくてもフライはできるが、窮屈な思いで釣りをするより提灯釣りが適当ならそれをする。楽しい釣りが一番だ。
農家の脇を流れる小さな沢(実はこの農家の脇に30センチ以上の岩魚が群れている。)だが、ちょっと歩いて大堰堤を越えると渓相は一変する。ほとんど手つかずの自然が残されていて、僅かに山菜道があるだけだ。あまりのブッシュの深さに遡行を断念し、景色だけを眺めて引き返す。堰堤の上ではマムシが日光浴をしていた。

堰堤 大堰堤の上流部 日光浴のマムシ

秋の渓流沿いには、トリカブトが咲いている。この美しい花がすべて猛毒だとは不思議な気がする。今季最後の渓流釣りはたいした釣果もなく終わったが、訪れたすべての沢には小型ながら結構な数の岩魚が確認でき、来シーズンへの期待がもてる。太郎兵衛の庭にはナツメが実をたわわにつけていた。

トリカブトの花


ナツメの実


渓流釣行記を書く場合、どこまで詳細に書くか迷う。できるだけ詳しい方が臨場感も出て良いのだが、釣り雑誌で紹介された河川は例外なくボロボロになってしまう。日本中から釣り人が押し寄せ、小さな魚まで持ち去られてしまう。かつての名川、藤琴川も数年前まで惨憺たる状況だったが、人が押し寄せ釣れなくなってしまい、そして人が去り、今少しずつ復活してきているようだ。
私のホームページはアクセスも少ないのでそんなことは杞憂だが、最新の釣具と機動力に豊富な情報を持った釣り人の前に、岩魚達はおびえるしかないのが現実だろう。せめてキャッチアンドリリースで、良い釣り場がいつまでも残るよう祈りたい。

ツリフネソウ


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