2017年 初秋 北海道 釧路


ここ数年、北海道のアメマス釣りが厳しくなってきている。もちろん普段関東や東北の渓流で小魚と戯れているよりは、はるかに大きくたくさんの魚が釣れるのは間違いない。しかし、60センチ、70センチを超える大型アメマスは姿を見せなくなってきているし、数もかつては一日に50尾以上釣れて腕が痺れてしまうようなこともなくなってきた。
沖合の定置網にかかってしまうアメマスが多くなったことや、鮭の遡上が少なくなったことなどが代表的な原因だと思われるが、確かなことは分からない。それでも平均的サイズや数では圧倒的な北海道に毎年通っている。大河川の川の中で膝上まで水に浸かりながらロッドを振っていると、釣り以外のことはすべて頭から消え去り、目印やラインの僅かな変化に全神経が集中されていく。今年も道東の河川でアメマスとレインボートラウトを追ってきた。

11月6日 月曜日 晴れ

自宅を午前4時過ぎに出て、武蔵小金井駅から京王バスのシャトル便で羽田空港に向かう。いつもなら5時15分発のバスに乗るのだが、今月5日からアメリカのトランプ大統領が来日しているので、いつ首都高などに交通規制がかかるか分からない。そのため一便早いバスに変更して、リスクを減らすことにしたのだった。
4時50分発のバスは1時間15分ほどで羽田空港第二ターミナルに到着した。普通のスーツケースなら自動荷物預入機で簡単に荷物を預けられるのだが、私のバッグはロッドを格納できる少し細長のバッグなので窓口で預けなくてはならない。荷物を預け入れ、空港内のコーヒーショップで朝食を済ませる。

羽田発7時45分のANA4771便は、釧路空港に予定時刻通りの9時20分に到着した。到着ロビーでガイドの中村さんと一年ぶりに再会をする。今回奥さんは都合で参加しないので、二人での北海道釣行だった。釣り道具などで膨らんだ大きなバッグを車に積み込んで、早速釣り場へと向かう。いつもの釣り場は雨で強い濁りが入っているので、もう一つ西の川へと向かう。この川は北海道釣行が始まった頃によく訪れた川だが、不調が続いていたので最近は竿を出していなかった。今年はどうだろうか。道の脇に車を止めて釣り支度を整え、川へと向かった。


釣り方はいつものアウトリガーで、ティペットは2X(2号)でエッグフライを結ぶ。オモリは取りあえず2Bを3つ付ける。しかし、3つではなかなか底近くを流せないので、さらに1つ加えて2B4つにした。東北の渓流釣りではせいぜいB1つくらいしか使わないので、この重さに馴染むまで暫く時間がかかる。ラインにドラグをかけないように、フライが着水してから上流側にメンディングしてオモリの沈下を促す。インジケーターがゆっくり流れるようにしないとアタリが取れない。やがてそのインジケーターが魚信を伝えてきた。すかさずラインを引いて合わせる。魚の力強い反応が返ってきた。


中村さんからアメマスはかなり厳しい状態だと聞いていたが、幸先良くアメマスからの魚信が続いた。型は35センチから40センチくらいだが、1年ぶりに味わう魚の引きが嬉しい。流れの強弱に合わせてオモリを足したり外したりしながら釣り続ける。


川の水には適度な濁りが入っていて魚からの反応が良く、入れ食いという訳にはいかなかったがポツポツと釣れ続いた。道東のいくつもの川が雨による濁りで釣りにならないと聞いていたが、意外に釣れるので一安心だ。型はイマイチだったが、贅沢は言えない。


こちらに来る前の北海道は低温で雨が続いたので心配していたが、それほどの寒さではなく手袋やダウンは必要なかった。風も穏やかで、キャスティングも楽にできる。この時期はちょっとした天気の変化で釣りをする環境がガラリとかわってしまい、それに対応する準備が必要だが今回はラッキーというしかない。



午後からは少し場所を移動して釣りを開始する。あい変わらず天気が良いので、雨具を上から羽織っているだけでも温かい。私のアメマス釣りは11月が多いが、時には風雪の中での釣りもある。そんな時は手がかじかんでフライの交換もままならないが、今日は気楽にフライをエッグフライからマラブーに、マラブーからビーズへと替えながら釣りができる。



今日のアメマスは平均的には40センチ前後だったが、時には50センチクラスの良型が釣れてくる。この大きさになるとかなり強い引きなので、容易には引き寄せることができない。十分に魚を泳がせてから、ゆっくりとラインを手繰ってくる。ティペットは2号なので切れることはないので、安心して寄せてくることができる。



キャッチ・アンド・リリースを繰り返しながら、少しずつポイントを移動していく。午後3時を過ぎると、辺りには段々と夕方の気配が漂ってくる。陽が傾くと吹く風も少しずつ冷たくなってきて、そろそろ店仕舞いの時間が近づいてきた。


今年の東北は熊との事故が多発した。ここ数年、熊の目撃情報は年々増加してきている。これらは熊の個体数が増えてきたのか、山の食糧が乏しくなってきたのか、あるいはハンターの高齢化と減少によるものかははっきりしない。過去数十年一度も熊と遭遇したことのない友人が、今年は秋田で1回、山形で1回と2回も熊と遭遇している。

この川にも熊がいるようで、河原の砂地にはいくつもの熊の足跡が残っていた。古いものもあるが新しいものもあり、熊がこの辺りを縄張りにしているのは確かなようだ。会わずに済ませたいものだ。


今夜は阿寒の道の駅に泊まる。この道の駅には温泉が併設されていて、温泉で体を温めてから寝ることができる。気温もたいしたことがないので、今夜は熟睡できそうだ。

11月7日 火曜日 晴れ

今日は大きく場所を移動して、レインボートラウトを狙う。時期的には少し遅いようだが、タイミングが良ければ何尾か釣れるかもしれない。アメマスは最初は強い引きをしてくれるが、弱ってくるのが早い。その点、レインボーは最後までファイトを続けるので、釣趣としてはこの上ない魚だ。


橋の先の空き地に車を止めて、そこから暫く歩く。夏ならひどいブッシュになっている所だが、今は木々も葉を落として歩きやすい。左岸側を下りながらポイントへと向かった。東北では秋冬になると渇水になってしまう河川が多いが、この川は水量が豊かで遡行も大変だ。



川沿いの草むらには何日か前に降った雪が残っていた。水量と水流を見ながらオモリの数を調整する。最初は2Bを4個付けて様子を見る。流心とその脇では流速がかなり違うが、そこをメンディングを多用して何とか水底近くをフライが流れるようにする。アウトリガーの釣りではここが肝心なところで、これをうまくやらないと魚と出会えない。


やがて川面を流れていたインジケーターがスッと止まり、魚信を伝えてきた。すかさずラインを引いて合わせると、鋭く強い引きが返ってきた。大物ではなさそうだったが、それでも6番ロッドを大きく曲げるパワーを持っていた。慎重にラインを手繰りながら寄せてくる。35,6センチくらいのレインボーだった。


少し場所を移動して釣り続ける。やがて再びインジケーターに反応がある。ラインを引き竿を立てて、しっかりとフッキングさせる。魚は何とか針を外そうとして川の中を泳ぎ回る。釣り糸のテンションを落とさないように注意しながら、魚を少しずつ寄せてくる。先ほどより少し大きいレインボーだった。


さすがにこの時期なので多くの釣果は望めないが、何とか良型のレインボーがいくつか釣れたので嬉しかった。アメマスも楽しいがレインボーの釣趣は格別で、この時期にレインボー釣りができるだけで幸せというものだ。一投一投に思いを込めてキャストを続けた。


車に戻り昼食をとる。中村さんが用意してくれた熱々の鍋焼きうどんを頂いた。広い牧草地の一角で、コーヒーを飲みながらくつろぐ。天気が良ければこその贅沢な時間だった。牧草地を横切るキタキツネや遠くの木立に飛翔してきたオジロワシ(?)を見ながら、優雅な時間が過ぎていった。


午後から再びレインボーを狙う。エッグフライは暫く使っていると魚にあきられてしまうようなので、時々マラブーなどのフライに付け替えて流す。マラブーは小魚を模したフライなので、ただ流しているだけではなかなか釣れない。フライが沈んだ頃にトウィッチをいれて、魚を誘う動作が必要になってくる。ラインを小刻みに引いたり、ゆっくり引いたりして魚に誘いをかける。


エッグフライのようにインジケーターの動きを見てからあわせるのではなく、アタリはラインを引いているときにガツンとやってくる。しかし、キャスティング、メンディング、トウィッチングの一連の動作がスムーズにできないと、この釣り方はうまくいかない。寒さの中で手が縮こまっているとトウィッチングも難しいが、何とかこの方法で数尾のレインボーを釣り上げた。



午後4時を過ぎると夕方の気配が濃厚になり、もうすぐ今日の釣りは終了だ。いつもであればアメマス一辺倒の11月の釣りだが、今回はレインボーも釣ることができた。2日間も良い天気に恵まれてが、北海道に来る前の天気予報では明日は雨とのことだった。もう一日良い天気が持ってくれることを祈らざるを得ない。今夜も阿寒の道の駅に泊まる。


11月8日 水曜日 曇り時々晴れ

朝の気温は2度くらいで暖かかった。天気は曇りで雨は降りそうもない。今日も一日楽しい釣りができそうだった。7時過ぎに道の駅を出発し、釣り場には7時40分に到着した。今日は毎年訪れている川でアメマスを狙う。当初はこの川を中心にして釣りする予定だったが、雨による増水と濁りで釣りができなかった。二日経って濁りが治まっただろうと期待してやってきたのだった。車から降りて川に近づいてみると、期待通りに水の濁りはほとんどなくなっていた。


アメマスは出だしから好調だった。エッグフライへの反応が良く、ここぞというポイントを流していくと、インジケーターがスーッと引かれたり流れの中でピタッと止まる。しかも釣れてくるアメマスは初日のものより一回り以上大きなものばかりで、引き味も抜群だった。


釣れないときは竿抜けになっているような場所、川面まで枝を伸ばした木の下とか対岸の岸沿いなどのキャスティングが難しい場所を狙わないと釣れない。しかし、釣れているときは教科書にあるような平凡な場所で釣れてくる。しかも、そういう場所ではフライを失うこともないので、同じフライで何尾も釣ってしまう。丈夫に作ったフライなのだが、良型のアメマスを何尾か釣るうちにボロボロになってくる。50センチクラスのアメマスも釣れ始めた。


この川には毎年来ているが、とても大きな川なのでなかなかポイントを覚えられない。魚の付き場は一定していると思われるが、その付き場が無数にあって、しかもアメマスは絶えず移動している。ここがだめならあそこ、と臨機応変に動き回らないと良型の群れにはぶつからない。しかし、動き回っているのは釣り人だけではなく、熊も同じようだ。河原で見つけた熊の足跡は、ほんの少し前にここを通ったものだった。爪の跡までくっきり残っていた。中村さんの話では、乳離れしたばかりの小熊ではないかとのことだった。


午後もこの川でアメマスを狙った。橋の近くから川に降り立ち、上流に釣り上がる予定だった。しかし、釣り上がることはできなかった。最初に入った場所で入れ食いになってしまったからだ。


この川に最初に来た頃のアメマス釣りは、まさに入れ食いのようだった。一日4,5時間の釣りで、50尾以上の良型アメマスが釣れていた。釣れるのは嬉しいが、腕には次第に疲労が溜まってくる。上腕筋が悲鳴を上げるような釣りだったのだ。それが次第に数が少なくなり、型も落ちてきた。ここ数年そんな状態が続いていたのだが、この日は違っていた。


始めは対岸の壁沿いでないと釣れなかったが、そのうち魚が活性化し始めたのか、手前の方でも釣れるようになってきた。フライはすぐにポロポロになってしまったが、そのボロボロに食いついてきた。まさに入れ食い状態になっていた。上流の様子を見に行った中村さんが、私がなかなか上がってこないのを心配して戻ってきてくれたが、この状態を見て驚いていた。釣れてくるアメマスは良型ばかりで、中には50センチを超える大型もいた。この場所だけで20尾以上のアメマスを釣り上げた。


例年なら3日目の午後の飛行機で東京に帰っていたが、今年は3泊して明日帰ることにしていた。いつもならやることがない3日目の午後に、異例の爆釣の時が訪れた。本当に釣りはタイミングだ。その時その場に居合わすことができれば、至福の時間がやってくるということだ。来年はどうなることだろう。


この後、釧路駅前のホテルまで送ってもらい、中村さんとそこでお別れした。今夜は駅前のホテルに一泊して、明日の朝の便で東京に帰る。今宵は北海道の地酒を堪能できそうだ。

11月9日 木曜日 晴れ

釧路駅前バスターミナルを8時20分に出発したバスは、予定通り9時頃に釧路空港に到着した。荷物は昨日のうちにゆうパックで自宅に送っていたので、ザックの中にはお土産として買った白糠のシシャモが入っているだけだった。9時50分発ANA4772便は定刻の9時50分に離陸し、羽田空港には11時40分に到着した。今夜は本物のシシャモと地酒で家内と乾杯だ。

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