2015年秋 コディアック


今年のアラスカは再びコディアックだったが、例年との大きな違いは家内が同伴したことだ。家内はアラスカはもちろん初めてだったし、釣りは全くの初心者で鮭釣りなど夢想だにしなかったと思う。その彼女が飛行機を2回乗り換えてコディアックまで行き、ビッグファイターであるシルバーサーモンに挑戦することとなった。

今年の釣行は家内同伴ということで、釣りだけでなく氷河見物やシアトル観光などのアトラクションを加えることにした。また、コディアックからアンカレッジの間が天候により飛行機の遅延の可能性があるので、昨年と同様にシアトルで2泊することにし、コディアックからの飛行機が一日遅れても帰国日に影響が出ないように工夫した。

9月3日 木曜日 曇時々雨

成田発16時20分のデルタ航空166便は、満員の乗客を乗せて定刻通りに飛び立った。シアトルまでは約9時間のフライトで同日の午前9時34分にシアトル・タコマ空港Sターミナルに到着した。時差はマイナス16時間だ。ここで入国審査と税関検査を済ませ、アラスカ航空にチェックインしてから荷物を預け直し地下鉄でメインターミナルに移動する。


次の便までの待ち時間の間に昼食を簡単に済ませる。シアトルはA,B,C,D,N,Sの6つのターミナルがあって、そのうちのいくつかは地下鉄での移動になるので、慣れるまではターミナル間の移動にとまどうことになる。11時55分発アラスカ航空105便は、小雨の中をアンカレッジに向けて飛び立った。


アンカレッジでレブン航空に乗り換えるのだが、乗り換え時間が約40分と短かったので荷物の載せ替えがうまくいくか心配だった。コディアック空港に到着して荷物が無事に出てきたときはほっとした。長距離の旅行で乗換が重なると荷物の預け入れや載せ替えが大きな問題になるが、今回は事前の確認が功を奏してすべてが順調だった。空港でレンタカーを借り出し、宿泊先のコディアック・インに向かった。


午後7時にガイドをお願いしている大木さんと中華料理店で落ち合い、夕食をとりながら釣行の打ち合わせをした。ここのところまとまった雨が降っていないので、本島内の川の状況はイマイチとのことだった。そのため明日は水上飛行機で隣りのアフォグナク島に渡ることにし、明朝7時30分にホテルまで迎えに来てもらうことになった。

9月4日 金曜日 晴れ時々曇り

打ち合わせ通り、大木さんが7時30分に迎えに来てくれた。大木さんの車でニヤアイランドにあるアンドリューエアウェイズに向かった。そこは水上飛行機の基地になっていて、島内の遠隔地や近くの島に人や荷物を運んでいる。事務所でアフォグナク島の入島料と飛行機のチャーター料を支払った。


家内は水上飛行機に乗るのはもちろん初めてだ。パイロットを含めて4人の乗った飛行機は、午前8時過ぎに出発した。水を切りながら暫く水面を滑走した後に、フロートが水を叩く音がやんで飛行機は一気に高度を上げた。


アフォグナク島はコディアック島の北東側に有り、水上飛行機で15分ほどで行くことができる。入り江が奥まで続いていて、その最奥が河口になっている。丁度満潮を過ぎたばかりの時間だったので、飛行機は入り江のかなり奥まで入ることができた。私達はその分歩かなくて済んで助かった。


飛行機から荷物を降ろして、海岸沿いに川まで歩き出す。10分ほど歩いただけでいつものポイントに到着した。そこは左岸側が深みになっていて、遡上した鮭が溜まりやすい所だ。早速釣りの支度に取りかかる。餌の筋子をエッグループで針に固定し、ポイントに向けてキャストする。家内には大木さんがつきっきりで世話をしてくれる。

最初の一尾は何と家内にやってきた。向こう合わせで、竿はぐんぐんしなっている。人生初めての鮭がかかった家内はどうしていいか分からない様子だったが、大木さんのアドバイスで少しずつ魚を寄せてくる。魚の強い引きに大いに興奮しているようだ。ただリールを巻くのではなく、かかった状態で自分が少しずつ後ずさりしていく。魚はやがて岸にズリ上げられた。見事なシルバーサーモンだった。次の1尾も家内にやってきた。


一方の私はバイトはあるものの、食い込みが足りずに合わせることができない。待ちきれずに合わせると、掛かりが浅くて外れてしまう。なかなか最初の1尾が掛からない。家内が2尾釣り上げた後、私の竿先がバイトを伝えてきた。魚が筋子を咥える様子が分かる。口の中にしっかり入った頃を見計らい、グッと合わせる。強い引きが返ってくる。最初の1尾なので慎重に取り込んだ。


それからはまた1尾、また1尾と釣れ始めた。ハリスは6号、ミチイトは5号なので、しっかり針掛かりしていればキズでもついていない限り釣り糸が切れることはない。


一方の家内は3尾目がなかなかこないでいた。やがて魚のバイトが来たのだが、合わせにまだ慣れていないので合わせが不十分だったのだろう。何とかランディングしようと後ずさりしながらリールを巻いてきたのだが、寸前の所でバレてしまった(右下の写真はyoutubeにつながります。)。残念!


家内はどうにか4尾まで釣り上げたのだが、制限尾数の5尾目がなかなか来ない。大木さんは家内に何とか釣らせようと、ポイントを移動しながら新しい群れが入る河口近くまで移動した。河口には遡上したてで体色がまだ変化していないピンクサーモンがいたようで、見事なオスのピンクサーモンを釣り上げた。これはキープせずにリリースする。


家内は元の場所に戻って、餌釣りからスピナーを使ったルアーフィッシングに切り替えた。もちろんルアーフィッシングは初めての体験で、最初のうちはなかなか思うようにはキャストできないでいたが、やがて前の方に飛ばせるようになってきた。そして待望の1尾がこのスピナーに食いついた。餌釣りとは異なりバイトがダイレクトに伝わってくるので、興奮度も高まる。家内は大喜びだった。


9時頃から釣り始めて11時頃までには二人とも制限尾数を確保することができた。私は制限尾数を釣った後はビーズでの釣りに変更した。昨年はビーズで大釣りしていたので、大いに期待してキャストを始めたのだが、一向にバイトがこなかった。川には沢山のピンクサーモンがいるので、このピンクサーモンに引っかからないようビーズを流していくのだが、ビーズの色を変えたり流し方を変えたりしてみても、何の効果もなかった。お昼の時間になったので、大木さんが用意してくれたランチを頂いた。ウメボシと紅鮭のおにぎりはとても美味しかった。


昼食後もしつこくビーズで釣りを続けたのだが、かかるのはピンクサーモンばかりだった。大木さんが言っていたが、今年この川へ遡上してくるシルバーの数はとても少ないのだそうだ。確かにピンクの群れの中に数尾のシルバーが見えるだけで、例年のようなシルバーの群れは見ることができない。定数が確保できたことをよしとしなくてはならないのだろう。

この川には終始我々しかおらず、完全に独占状態だった。豊かな自然と鮭に恵まれたこの場所にいるのは大木さんをふくめて我々三人だけだった。ふと対岸を見ると、カワウソのような動物が岩の隙間から出入りしていた。ここでこのような動物を見るのは初めてだった。


3時頃まで粘ってみたが、状況は好転しないのでここで納竿となった。釣り道具を片付けて、入り江まで戻る。丁度上げ潮が始まっており、水上飛行機はかなり奥まで来てもらえそうだった。ピックアップポイントになると思われる所で魚を処理しながら飛行機を待つ。約束の5時になっても飛行機の爆音が聞こえてこないので少し心配になったが、やがて遠くから爆音が響いてきた。

大きなビニール袋3つ分の鮭と我々を乗せた飛行機は、海面をけって飛び立った。家内の人生初めての鮭釣りは、かくして大成功のうちに無事終わることができた。


夕食は港の近くのレストランでとることにした。ヘインズレストランは人気のレストランで、いつも大勢の家族連れで賑わっている。予約していなかったのですぐには席がなかったが、その場で予約して15分後には着席することができた。まずは旅の順調な滑り出しを祝って、地ビールで乾杯する。この店はハンバーガーなどのメニューが豊富で美味しい。比較的ヘルシーなものを選んで注文する。明日は海釣りだ。


9月5日 土曜日 晴れ時々曇り

今日は私は海釣り、家内はホテルに残ってキルトをする。ホテルの無料の朝食は朝6時から食べることができる。船の出発は8時なので、二人でゆっくりと朝食をとる。ベーコンやウィンナ、スクランブルエッグ、グリルドポテトなどが用意してあり、パンは何種類も用意されていた。ヨーグルトがあったのが嬉しかった。


7時30分に港に行く。今日お世話になる船は「Moon Shadow」で、船には既に同乗する釣り人が集まっていた。キャプテンのデイビッドは2年前に他の船でデッキハンド(助手)としてお世話になっていたが、聞けば3年前にキャプテンのライセンスを取ったのだそうだ。以来時々船長として操船しているらしい。

スイス人の4人組とアメリカ人の青年、それに私を加えて6人の釣り人を乗せた船は、8時に桟橋から出航した。今日のデッキハンドは父が韓国人、母が日本人というアジアンハーフのお嬢さんだった。

港内の給油所で給油を済ませ、沖に向かって走り出す。今日は島の北東沖を攻めるようだ。アフォグナク島を左手前方に見ながら、船は大きな白波を立てて進んでいく。約1時間ほどで釣り場に到着した。


最初に狙うのはブラックロックフィシュ(黒ソイ)だった。他の釣り人はニシンを短冊に切った餌を付けて釣り始めたが、私は日本から持参したジグでジギングを開始した。ジグを底まで落として、そこから誘いをかけながら少しずつ巻き上げてくる。水深は20〜40メートルくらいで、エンジンをかけながらの流し釣りだ。ポイントを過ぎると船長は船を潮上に戻して、再びポイントの上を船を流す。

ジグなのでアタリは明確だ。合わせると力強い引きが返ってくる。45センチから50センチくらいの大きな黒ソイが、船内のあちらこちらで上がり始める。黒ソイの定数は1日5尾だが、たちまち定数に達した。私は黒ソイに加えて、イエローアイや1メートルを超えるリングコッドを釣り上げた。胴回りの太いリングコッドで、強烈な引きを堪能した。


全員が定数を達成したので、場所を変えて次にハリバットを狙うことになった。黒ソイは岩礁帯に棲息するが、ハリバットはどちらかというと砂地の魚だ。そのポイントに向かって40分ほど船は走った。ポイントに到着するとアンカーを打って、船はエンジンを止めた。

ニシンのぶつ切りを大きな針にチョン掛けして、重いオモリとともに海に放り込む。後はひたすら魚が食うのを待つだけだ。エンジンを止めると船は波の動きに応じて揺れ続ける。釣りも穂先をじっと見ながら待つだけだから、船中に船酔いの人が出始めた。スイス人はほぼ全滅だった。

やがて私の竿先にコツコツとアタリが出始めて、やがて水中に大きく引き込まれそうになる。ここで大きく合わせをくれて、しっかりと針掛かりさせる。重たい魚の反応が返ってきた。針にがっちりと乗ったようだ。ここからは釣りというより重いリールを巻き続ける労働になる。水面に顔を出したのは90センチくらいのハリバットだった。


12時過ぎに昼食のランチボックスが配られたが、平気な顔で食べているのは船長とアメリカ人青年、それに私の3人だけだった。それでも午後2時半頃には全員が定数に達したので、少し早めの沖上がりとなった。私の釣果は大木さんが後で船に取りに来るので、その旨を船長に伝える。

桟橋に戻る途中で港内にあるアイランドシーフードに寄る。私以外の釣り人は、ここで魚の処理を専門会社に依頼することになる。桟橋には大木さんが待っていて、私の釣果を引き取ってくれた。ホテルには予定よりかなり早い午後4時半に帰ることができた。


この日の夕食は車でスーパーまで買い出しに行き、サラダやデリカなどを買ってきた。ホテルの部屋でのんびりの夕食となった。

9月6日 日曜日 曇り時々雨

今日は早朝5時に起床し、ホテルの朝食を食べずに出発した。大木さんは6時に迎えに来てくれた。向かうのは車で15分ほどの所にあるバスキンリバーだ。まだかなり暗い駐車場には既に1台の車が止まっていた。釣り支度を整えてから、懐中電灯で足下を照らしながら釣り場へと向かった。


今日の最初の釣り場はブロウクン・ブリッジと呼ばれる人気のポイントで、そこには既に一人の釣り人が暗い中で釣りをしていた。 私達も暗い中で懐中電灯の明かりを頼りに釣りの準備を始めた。仕掛けをミチイトに結び、餌の筋子をエッグループで針に固定する。餌を斜め上流にキャストして、暗い中でかすかに見える竿先に神経を集中する。

今回も最初の1尾は家内にきた。ビギナーズラックというより大木さんの指導のおかげだが、何とかバラさずにランディングすることができた。私にもバイトがあって十分食わせてから合わせたつもりだったが、針掛かりが不十分でバラしてしまった。

明るくなるにつれて周りの釣り人が増えてきた。そのうち下流側にいた釣り人が大声で「熊だ!」と叫び始めた。彼が指さす方を見てみると遠くの草原を熊が走り去るのが見えた。彼は大胆にも熊の行方を探しに行き、暫くして帰ってくると「3頭いた。」と言っていた。

釣り人が増えてくるのにつれてアタリも遠くなってきた。大木さんは家内に餌釣りからスピナーによるルアーフィッシングへの変更を提案した。スピナーを何回かキャストするうちに、巻いてくる途中のスピナーにシルバーが食いついた。しっかり針掛かりしているのでバレる心配はない。ランディングに成功して、ここで定数を達成する。

これを見て私もすぐにスピナーに変更する。始め定番のオレンジ色のスピナーでキャストしたのだが反応がない。そこで黄色のスピナーに変えると、数投でバイトがきた。待望の一尾を釣ることができた。


さらにキャストを続けていると、シルバーが水中でスピナーに食いつくのが見えたのですかさず合わせる。強烈な引きが返ってきた。シルバーに走られると取り込みが大変なので、暴れる前に素早くランディングした。良型のシルバーだった。これで二人とも本日の制限尾数を達成した。周りの釣り人はまだ誰も定数に達していないようだった。


時刻はまだ8時頃だったので、今から戻ればホテルの朝食に間に合うという大木さんの提案に従い、釣りの道具をまとめてホテルに戻ることになった。今朝の釣りはまさに朝飯前の出来事となった。


ホテルで朝食を済ませてから、今度は島の反対側にあるパサギシャクリバーに向かうことになった。この川まではホテルからは1時間以上かかる。ワインディングロードをひた走り、パサギシャクリバーの河口に到着した。既に大勢の釣り人がいて、干潮で川幅が狭くなった川の両側からフリッピングでシルバーを狙っていた。川の両岸からフリッピングであんなにバシャバシャと攻められたら、魚たちは遡上をためらってしまうかもしれない。私達はその場所をあきらめて、少し上流に入った。


流れがほとんどなく池のような場所だが、水中を悠然と泳ぐシルバーサーモンが見えた。スピナーをセットして、早速キャストを開始した。しかし釣れてくるのはカジカばかりで、肝心のシルバーはかかってくれなかった。


オルズリバーに転戦する途中、オルズリバーインで昼食をとる予定だったが、寄ってみると臨時休業だった。仕方なく、アメリカンリバー近くのレストランで昼食をとる。朝からしとしとと雨が降っていたが、昼食の最中に雨は本降りになった。ゆっくりと食事をしながら雨をやり過ごす。昼食後はアメリカンリバーでの釣りとなった。

川にいるのはほとんどがピンクサーモンだが、よく見ると1,2尾のシルバーが混じっている。これを狙う。最初はジグヘッドのフライをキャストしてみたが、水量が少なくてフライがうまく流れない。シェニールのフライに変えてみたが、食いつくのはピンクサーモンばかりだった。家内もルアーで頑張っていたが、掛かってくるのはピンクサーモンばかりだったのでこの辺が潮時のようだ。かくしてアラスカでの釣りはここで納竿とすることにした。


午後6時半からオールドパワーハウスというレストランで、大木さんと精算を兼ねて夕食をご一緒した。このレストランは経営もシェフも日本人で、美味しい日本食を提供してくれる。地元でも人気があり、いつも大勢の地元の人で賑わっている。私はソバサラダ、家内はトンカツを注文した。


食後、大木さんに近くの山の頂上まで案内をしてもらった。頂上までは車で行けるとのことで、眺望が素晴らしいと言っていた。住宅街を抜けて、道は未舗装道路に変わった。高度をぐんぐん上げながら進んでいくと、前方に大きな風車が見えてきた。頂上に着く頃には、先ほどまで山を包んでいた霧もほとんどなくなっていた。


頂上からはダウンタウンの町並みや港などの他に、遠くの空港まで見渡すことができた。いつも下の方から遙か彼方に見ていた風車も手の届く距離にある。コディアックに通い始めて随分になるが、初めて見る素晴らしい景色だった。


頂上付近にはコケモモの一種が生えていて、名前を大木さんに尋ねると「ロウブッシュ クランベリー」だと教えてくれた。地元の人はこれでジャムを作るらしい。1個つまんで食べてみたが、かなり酸味の強い味がした。この景色を見て、家内もコディアックを大いに堪能したことだろう。


9月7日 月曜日 晴れ

5時半に目覚めたので、すぐに外の様子を見る。快晴だ。今日はコディアックからアンカレッジに行き、飛行機を乗り換えて同じアラスカのキーナイまで行く。天気が悪くて飛行機が飛ばなければ、スケジュールが大幅に狂ってしまう。まずは安心して、ホテルの朝食を食べることができた。7時45分にホテルをチェックアウトし、途中で給油してから空港へと向かった。

8時10分に空港でのチェックインを済ませ、荷物を預けてからレンタカーを返却した。こんなにストレスのないコディアック出発は久しぶりだ。空港内ものんびりムードが漂っているような気がした。


それでも出発は20分ほど遅れ、コディアック空港を9時25分に離陸した。機内の座席は左右1列ずつで、かなりの小型飛行機だった。1時間5分の飛行で、アンカレッジには10時30分に到着した。


キーナイへの飛行機の出発時間までには2時間以上あったので、少し早いが昼食を済ませることにした。アンカレッジの空港内にはいくつものレストランやコーヒーショップがあって、軽食からお酒まで提供している。空港の中は禁煙なので、空港の外の喫煙所でニコチンを十分充填してから、身体検査を受けて搭乗口に向かった。


アンカレッジからキーナイまでは僅か30分ほどのフライトだ。空港一番外れの搭乗口から飛行機に乗り込む。アメリカでは僅か30分のフライトでもクッキーなどの軽食が配られる。乗客全員にクッキーが行き渡る頃には、飛行機は着陸準備に取りかかる。午後1時、飛行機は予定通りキーナイ空港に到着した。


家内が荷物が出てくるのを待っている間に、私はAVISでレンタカーを借り出す。久しぶりのキーナイ空港だが、内装も外装も一新されて美しくかつ機能的になったように見えた。日本が何年も経済停滞をしている間もアメリカは経済性成長を続けてきた。資源を持つ者と持たざる者の違いと言ってしまえば簡単だが、この差はとてつもなく大きい。

宿泊先のキーナイ・リバー・ロッジは文字通りキーナイリバーのほとりに立っていて、ロッジの庭先からサーモン釣りができる。世界最大(スポーツフィッシングとして。)のキングサーモンはこの川で釣られている。一度泊まってみたいと思っていたロッジだ。チェックインを済ませてから、近くのスーパーに滞在中の食糧の買い出しに行く。

キーナイには何人かの友人が住んでいるが、そのうちの一人(二人)であるターナー夫妻から今日の午後3時に食事に誘われていた。ご主人のゲーリーとは2003年以来の付き合いで、彼が主催したキーナイ大学での夏期セミナー(フライフィッシング講座)に私が参加したのが縁だ。

午後3時に家内と一緒にご夫妻を訪問した。ドアをノックして現れたのは懐かしいゲーリーだった。家内をご夫妻に紹介し、家内は日本から持参したお手製のキルトを二人に差し上げた。二人ともとても喜んでくれた。アメリカ人のホームパーティーに参加するのは初めてだったので進行の具合が分からなかったが、ゲーリーに飲み物の好みを聞かれ、私はコーラ、家内はアラスカンアンバービールをお願いした。また、アピタイザーとしてスモークサーモンディプなどのオードブルが用意されていた。


居間の先にはテラスがあって、そこで椅子に座って眼下を流れるキーナイリバーを見ながらビールを飲んだり談笑したりしてディナーまでを過ごす。今回のパーティーには私達の他にカート夫妻とデイブとシンディーも呼ばれていて、談笑の輪ができていた。私は家内を案内して、川のほとりにあるゲーリーのボートランチまで行ってみた。シーズンになればここにはボートが係留され、朝に晩にサーモン釣りにでかけることができる。


夕食はみんなでダイニングテーブルを囲んで、グリルドチキンやコールスローサラダ、ポテトサラダ、豆の煮物など料理上手の奥さん手作りの品々がテーブルを飾っていた。デザートにはシンディー手作りのストロベリーパイとバナナクリームパイが配られた。とても美味しいパイだった。心のこもったもてなしに感謝しつつ再会を約して、午後6時においとました。


帰る途中でスーパーに寄ったので、ロッジに戻ったのは午後7時半だった。まだ外は明るかったので、キーナイリバーで釣りをすることにした。もちろん釣果は全く期待しておらず、ただキーナイリバーで釣りできるのが嬉しかった。スピナーには魚からの反応はなかったが、満足の一日を終えることができた。

9月8日 火曜日 雨

今日はセワード(Seward)に氷河見物に行く日だ。セワードはキーナイ半島の東側の付け根にある街で、北極海から伸びる石油パイプラインの終着点である。アラスカ鉄道でアンカレッジから来ることもできる。キーナイの街からは97マイル、約2時間のドライブだ。余裕を持って午前7時15分にロッジを出発した。

キーナイからスターリン・ハイウェイを暫く進むと、やがてセワード・ハイウェイに突き当たる。これを右折して山沿いの道を南下していくと道の終点がセワードの街だ。午前9時10分、氷河見物主催会社の駐車場に到着した。


今回の氷河見物はキーナイ・フィヨルド・ツアーズが主催しているツアーで、セワードを出発してリザレクション・ベイをフィヨルド沿いに南下してアイアリック氷河(Aialik Glacier)を見に行く6時間のツアーだ。桟橋には数隻のツアー船が係留されていて、小雨の中を大勢の観光客が集まっていた。事務所で受付を済ませてから、そのうちの一隻に乗り込んだ。


10時45分、大勢の乗客を乗せて桟橋を出発した。船は胴体が二つある双胴船でとても安定が良い。船には2層の客室があって、どの階にもデッキがついているので見物の際の出入りがしやすくなっている。船はラッコなどを見つけると、速度をぐっと落として見物しやすくしている。暫くリザレクション・ベイを南下していく。


アイアリック半島(Aialik Peninsula)の南端にあるアイアリック岬(Aialik Cape)の周辺はオルカ(Orca or Killer Whale)が棲息していて、船はここでエンジンを切って停泊した。デッキに立って半島沿いの海を見ていると、三頭のオルカが潮を吹きながら回遊しているのが見えた。船長の解説では三頭はファミリーということだった。


ラッコやコクジラ、オルカ、パフィンなどを見ながら船は氷河へと進んでいく。正午を過ぎる頃に乗客にはランチが配られた。お手製のブリトーのようなランチで、スナック菓子もついていた。食べ終わる頃、海面に小さな氷の塊が漂い始めた。いよいよ氷河に近づいてきたようだ。


流れてくる氷河の破片を乗務員が網ですくっていた。すくい上げた氷は客室内のカウンターの上に置かれた。流れているときは青っぽいあるいは白っぽい色をしているのだが、こうして見ると普通の氷の塊だ。キーナイ山脈に降った雪が凍り付き、長い時間をかけて少しずつ山を下り、こうして海まで辿り着いたのだった。


氷河がだんだん近づいてきた。見えてきたのはアイアリック氷河(Aialik Glacier)だろう。キーナイ山脈の中にあるハーディング氷原(Harding Icefield)から流れ出した氷河は、1日に2メートルのスピードで移動してその出口である海に辿り着く。僅か10キロの移動でも14年の歳月を要する計算になる。


風雨は一段と強くなってきて、雨具をしっかり着こんでいてもデッキにいるのが大変だった。それでも氷河を一目見ようと、大勢の乗客がデッキに集まってきた。乗客は青い光を閉じ込めながら海に迫ってくる氷の壁を見入っていた。地球温暖化キャンペーンなどでよく登場するのがこの景色で、一日に数メートル移動するのだから海に崩れ込んでいくのは当然なのに何故か温暖化の象徴として報道されている。


氷河見物はいくつかのコースが設定されていて、複数の船が航行している。我々の向かい側の方向に別の船がやってきた。その船にも大勢の乗客が乗っていて、船のデッキに大勢の人が立っていた。天気が悪くても感動的な景色だが、天気が良ければさぞかし美しい景色だったことだろう。


氷河を見た後、船はハーバー島(Harbor Island)に向かった。ここにはトド(Steller Sea Lion)のコロニーがあって、10数頭のトドが棲んでいる。年間を通してこの辺りで暮らしているが、数が年々減少していて絶滅危惧種になっているそうだ。船は少しずつ元来た航路を引き返し始めた。おやつにチョコクッキーが配られた。午後5時15分、船は予定より少し遅れて港に到着した。


スターリン・ハイウェイを戻る途中、スキラック・レイクに寄ることにした。この湖はキーナイリバーの上流に有り、とても景気の良い所で白鳥のコロニーもある。スターリン・ハイウェイの旧道に入り、未舗装の砂利道を暫く走ると湖にいくことができる。我々が湖に着いたとき、丁度地元の青年達が釣りを終えてボートランチに戻ってきたところだった。


キーナイでの最後の夜はカニを食べることにしていた。キングクラブ、これはタラバガニのことだが、アラスカでも人気のシーフードで値段も高い。前に何回か行ったことのある店に家内と出かけた。しかし店は経営者が変わってしまったようだ。メニューの内容が変わり、カニもビールも扱っていなかった。まあたまに飲まない日があってもいいか、ということで、家内はポークステーキ、私はビーフステーキを注文し、コップの水で乾杯した。


9月9日 水曜日 曇り晴れ

この日、キーナイからシアトルに移動する。6時に起床して、スーパーで買ったパンと日本から持参した野菜スープで朝食を済ませる。宿を出発するまで少し時間があったので、ロッジの回りを散歩することにした。


キーナイリバーは世界一のキングサーモンが釣れた川であることは前に触れたが、近年、キングサーモンの遡上数は激減している。釣り方を厳しくしたり禁漁期間を長くしたりと様々な対策が講じられているが、成果は上がっていないようだ。キーナイにはキングサーモンを求めて世界中の釣り人がやってくるが、その数も減っているに違いない。今はキングサーモンの時期ではなくシルバーサーモンが終期を迎えつつある。対岸の公共デッキでは鮭が釣れていたようだ。


カリフォンスキー・ビーチロードを通って空港に向かう途中で、キーナイフラッツの展望所で車を止めた。平原の真ん中をキーナイリバーが流れ、広々とした秋の景色が広がっている。キーナイから帰るときには、いつもこの景色を見てから帰ることにしていた。今日は家内とこの景色を見ている。


キーナイ空港はこじんまりとした空港だが、待合室には大きな熊の剥製が展示されている。多分地元で獲れた熊だろうが、とてつもなく大きい。キーナイリバーのサーモンを食べて大きくなったのだろう。チェックインを済ませ荷物を預けてからレンタカーを返却した。


飛行機は9時30分にキーナイ空港を飛び立ち、9時57分にアンカレッジ航空に到着した。シアトルへの飛行機までは2時間以上あったので、空港内のレストランで早めの昼食を取る。家内はスモークサーモンハンバーカー、私はクラムチャウダーとサラダを注文した。


12時35分発アラスカ航空110便は、16時59分にシアトルに到着した。時差が1時間あるので3時間24分のフライトだ。いつもはタクシーでダウンタウンのホテルに向かうのだが、今回はシャトル便を使うことにした。シャトル便は有名ホテルと空港を往復していて、タクシーなら片道70〜80ドルかかるところを15.5ドルで利用することができる。たいてい安宿しか泊まっていないので今まで利用したことはなかったが、今回は家内の希望で Warwick Seattle Hotel に泊まるのでこれを利用することができた。これの唯一の欠点は他の有名ホテルを経由して行くので、普通なら30分で着くところを50分近くかかることだ。


ホテルには6時30分に着いた。荷物をほどき着替えを済ませてから夕飯に向かう。この日の夕食は Shucker's で牡蠣を食べると決めていたので地図を頼りに歩きだす。店の場所がなかなか分からなかったが、オリンピックホテルの1階でドアマンに聞いたらこのホテルにあるという。ホテルの1階奥にこの店はあった。

牡蠣は生牡蠣と牡蠣フライ、それに燻製の3醜類があったので、それぞれを半ダースずつ注文した。身は小振りだが味が良く、あっという間にたいらげてしまった。かつてこの店で娘と3ダースの牡蠣を食べたことを食べながら思い出していた。


腹ごなしを兼ねて夜の街を散歩した。パイクプレースマーケットはほとんどの店が店じまいしていて、人通りも少なかった。この近くに Kells というアイリッシュパブがある。とまどう家内を連れて店に入った。ここはシアトルに泊まったときは必ず訪れているバーで、アルコールとアイリッシュ音楽が楽しめる。カントリー音楽をやるときもあり、そんな時はチップを払って好きな曲を注文している。今夜のシンガーもてっきりカントリーができると思ってチップを渡してリクエストしたのだが、注文した曲は知らないと言われてしまった。チップを返してくれとも言えず、彼に手を振って店を後にした。


9月10日 木曜日 晴れ

今回の旅行の最後の活動日、一日シアトル観光だ。ホテルの近くのスーパーでサンドイッチなどを朝食に購入し、店内のテーブルと椅子が置いてある場所で食べる。腹ごしらえができたので、まずはパイクプレースマーケットに向かう。ここはシアトルではスペースニードルに並ぶ観光名所だが、ブロック全体が大きなマーケットになっている。パイクストリートからマーケットに向かい、最初に出くわすのがこの魚屋だ。ガイドブックなどで必ずトップに紹介されている場所だ。


この魚屋ではキングサーモンを始め、目の前の海で獲れた魚を売っている。希望すればホテルまで届けてくれるそうだ。他にも八百屋や花屋、さらには小物雑貨の店など600を超える店が軒を連ねている。朝から大勢の観光客が訪れて賑わっていた。


今日のお目当ての一つが水族館だ。昨年も白石さんと訪れていたが、何度見てもあきることがない。入場料を支払い入館する。丁度大水槽の清掃をしている最中で、二人のダイバーが水槽のガラスの内側を清掃していた。


展示物は海洋生物が中心だが、北の海の生物だけでなくハワイの海の生物なども展示していた。私がこの水族館の最大の特徴だと思うのは、鮭に関する展示だ。キングサーモンが回遊する水槽だけでなく、外洋と館内をつなぐ水路があって海で育った鮭が水路を伝わって館内に遡上できるようになっている。まだ一度も実物を見たことはないが、目の前の水路を鮭が遡上していたらさぞかし興奮することだろう。


水族館をゆっくり見学したので、館内を出たときはお昼になっていた。海岸通り沿いにあるレストランで昼食をとった。ブレッドチャウダーとでも言うのだろうか。丸いパンの中身をくり抜いて、中にクラムチャウダーをいれる。チャウダーがパンにだんだん染みてきて、とても美味しかった。二人で一つが丁度いい量だった。


食事を終えて店を出ると、目の前のアラスカ通りを水陸両用艇が通り過ぎた。私達も3時から乗る予定になっている。その前に二人で観覧車に乗ることにした。すこしためらいがあったが、ここは観光客に徹してチケットを買って乗り込んだ。


観覧車の規模は大したことはないが、頂点付近では太平洋やシアトルの街が一望できる。シアトルマリナーズの本拠地であるセイフコフィールドも見ることができた。観覧車は1周ではなく4周回るので、見過ごしたものでも再び見ることができる。すっかり観光客気分になってきた。


昨年シアトルに来たときに気になっていたのが、この水陸両用車だ。正しくは Ride The Duck というのだが、シアトルのダウンタウンと近郊の湖を90分で案内してくれる。3時発のチケットは既に日本で購入済みだ。乗客はアメリカ人ばかりと思いきや、ドイツ人やオーストラリア人、韓国人など世界各地から来ている観光客だった。


満員の乗客を乗せて車は走り出した。ダウンタウンの名所をドライバー(キャプテン)の解説を聞きながら回って行く。私達がさきほどレストランから見た所も通り過ぎた。車はやがてダウンタウン近郊にあるユニオンレイクに向かっていった。


湖へは舗装された道が続いていて、車はゆっくり水に入っていく。ドライバーの帽子がキャプテン用の帽子に変わっている。車は船に変わり水面を走り出した。この車が船であることを示すかのように、車の天井には救命胴衣が用意されていた。


この湖は海とつながっていて、アラスカから帰港したという船が係留されていた。湖岸沿いに住宅が建っているように見えるが、実はこれらはボートハウスと呼ばれる住宅だ。もちろん湖底に固定されてはおらず、家全体が船のようになっている。それでも家でもあるので、市には固定資産税(?)を支払っているそうだ。



左下の写真を見るとモーターハウスであることがはっきり分かる。後ろに2基のエンジンが付いていて、これで移動できるようになっている。デッキにはバーベキューセットも用意されていて、湖上でのバーベキューを楽しむのだろう。


ディナーショーで今回の旅行を締めくくる。このために家内は手製の洋服を持参していたので、ホテルに戻り二人とも着替えをしてから出かけた。Teatre Zinzzani は昨年も訪れた劇場で、アクロバットを交えたコメディを見ながら、本格的なディナーを楽しむことができる。高度なアクロバットを駆使しながら全体をコメディでまとめていて、歌有りダンス有りの多彩なパフォーマンスを楽しむことができる。家内も大いに満足したようだった。


ディナショーが終わり、帰りがけに日本人女性に声をかけられた。大勢いた観客の中で、日本人は私達だけだったようでそれで声をかけてくれたのだ。彼女のアメリカ人の夫はこのショー(9月10日が千秋楽)の次の興業で「侍」役として出演するので、前もってシアトルに来ているとのことだった。クールなご夫婦にお会いできて、私達もとても嬉しかった。

事前の準備は相当周到に行ったが、旅行の成否を左右するのは天気かもしれない。フライトが狂うとすべてが台無しになりかねない。緊張が一気に高まるし、変更手続きに大変な労力が必要になる。そんな苦労をしてまでどうして行きたいのかよく分からないが、旅が終わってしまうと、もう次の旅のことを考えてしまう。来年は7月にコディアックに行くつもりだ。狙いはキングサーモンだ。バンクフィッシングで狙うキングサーモン。考えただけでもワクワクしてくる。それまでの間、じっくり準備を楽しんでいくことにしよう。




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