2006年夏 の50ポンド


キングサーモン

はじめに

今年のアラスカは、仕事や現地での日程から一人で行くことになった。一人旅のアラスカは3回目になる。飛行機の乗継ぎ、長いドライブなどを一人でするのは大変だが、サーモン釣りたさに出かけていった。今回は成田での出発が3時間遅れるところから始まった。

7月26日

第1ターミナルのノースウエスト航空の受付は、コンピューターシステムがダウンしたため、窓口には長蛇の列ができていた。私はウェブ・チェックインしていたので荷物を預けるだけだったが、受付前の荷物のX線検査に辿り着けない。1時間近く待って荷物を預け、出国審査を済ませて28番ゲートに向かう。ところが、ゲート前の搭乗案内の電光板には定刻の15時25分ではなく、変更時間17時が表示されている。あいかわらずシステムダウンが続いていて、復旧の見込みはないという。

ひたすら待つ乗客

成田・シアトルが遅れると、その先の乗換え便に間に合わない。シアトル→アンカレジ→キーナイへの乗換え便は予約済みだし、キーナイ空港からはレンタカーを借りている。レンタカーの営業時間に間に合わなければ、空港から一歩も動けなくなる。タクシーは1台しかないしバスなどない。ノースウエストの係員に冷静を装って相談するが、ここでは何もできないのでシアトルで相談してくれとつれない返事。シアトルから先、一つの交通手段が確保できなくても目的地には辿り着けないのだ。

飛行機は成田でのシステムダウンで2時間、タイから来る(タイでもシステムダウンで遅れていた)乗継ぎ客を待つこと1時間、計3時間の遅れで成田を離陸した。 不安な気持ちを抱えながらシアトルで入国審査を受け、税関検査の後、国内線乗換え専用の荷物預けブースに向かった。そこには係員が、シアトル・アンカレジ間の航空券を確保して待っていてくれた。でも私には先がある。アンカレジからキーナイへの航空券について尋ねると、あわててその航空会社に電話してくれたが、なんと明日の朝まで空席はなく、確保できたのは翌日の朝の便だった。キーナイには今日中に行けない。

このままではアンカレジ1泊のホテルを探し、レンタカー会社、ロッジ、現地の友人たちに日程変更の連絡をしなくてはならない。気の重くなる作業だ。そこで、キーナイで借りるはずだったレンタカーをアンカレジに変更できないか、レンタカー会社に聞いてもらった。アンカレジから3時間車を飛ばせば、何とか現地に入れる。しかし、アンカレジのレンタカーは予約で一杯だった。今は夏休みシーズン。一年のかき入れ時に、空いている車やホテルはないのだ。参った。

仕方ない。とにかく行けるところまで行こう。シアトルから飛び立つ。アンカレジに到着して荷物を受け取り、キーナイへの便を扱うエラアビエーションの受付カウンターに向かう。なんとか1席をと尋ねると、1時間後に出る便に空きがあるという。助かった。いやー本当に良かった。係員の女性が地獄に仏のようだった。 荷物を預け、空港の外に出て一服する。成田を出て以来、17時間ぶりのタバコだ。こんな時に一人旅は実に心細い。自分以外に頼れる人はいないし、苦しみも楽しみも自分一人で受け止めるしかない。タバコがしみた。

アンカレジ航空の西の端にあるエラアビエーションの出発ゲートに戻る。とそこに顔見知りの人が歩いてきた。ゲーリーではないか。アンカレジで仕事を終えて帰るところの友人に、2年ぶりに再会した。2階のバーでコーラとビールで乾杯した。

キーナイ空港前のレンタカープール

キーナイ空港には17時に到着。レンタカーを借りて、ロッジに向かう。途中、スーパーマーケットで滞在中の飲み物と食料を買う。空港から宿までは約50マイル。1時間はかかる。舗装道路を40分くらい走ると道は砂利道になる。土埃を舞い上げながら20分走り、この道の終点にあるロッジに着く。オーナーのケンとは3年ぶりだ。彼の奥さんはキルト好きなのを知っていたから、義母に作ってもらった押し絵をプレゼントしてとても喜ばれた。シャワーを浴びて一服しながら、今日の長い一日を振り返っていると、疲れが一気に押し寄せてきた。明日は友人のバレリーの家を訪ねる。

今夜のねぐら ロッジの中

宿の前の風景 宿の前の風景 宿の前の風景2    宿の前の風景 野の花 ルピン     野の花

7月27日

午前9時、キーナイのオールドタウンにいる友人、バレリーを訪ねる。愛犬のニッキといっしょに出迎えてくれた。昨年カッパーバレーの帰りにアンカレジで会って以来、1年ぶりだ。四方山話に花を咲かせて、昼食には日本から持参したカップヌードルを二人で食べた。
バレリーとは、子育てから環境問題といった固い話まで、何でも気兼ねなく話せるから不思議だ。今回は、いっしょにディップネッティングをする約束だったが、例年になくソックアイサーモン(紅鮭)の遡上数が少ないので、アラスカ州当局が商業捕獲もスポーツフィッシングもすべて禁止していた。それも私が入国した前日からで、今週中は解除の見込みがないということだった。

向かう途中で

ディップネッティングは、大きなネットを使って、川に立ち込んだりボートに乗ったりしながら遡上してくるサーモンをすくいあげるという釣りで、アラスカの住民にだけ許された方法だ。雪解け水で川には濁りが入っているから、この方法でも鮭を捕まえることができる。遡上コースにネットを持って待ち、飛び込んでくる鮭をすくい上げる。
現地の人々はこの方法で年間制限尾数、例えば一人50尾なら4人家族で200尾くらいを捕まえる。魚の濃いアラスカならではの釣りだ。彼らはこれらの魚をスモークしたり、冷凍したりして一年中食べている。いっしょにできることを楽しみにしていたが、規則なので仕方ない。

1時近くにおいとました。午後はキーナイ川でバンクフィッシングだ。スイフトウオターリバーパークの入口で駐車料金5ドル25セントを払い、川に降りる階段の近くに車を止める。チェストウエダーをはいて、キャスティングロッドを持って川に降り立つ。キーナイ川の水深は深くて1.5mくらいで、岸辺は50〜70センチくらいなので、立ち込んでの釣りが可能だ。しかし、水は冷たいので川沿いに作られている足場に乗って釣りを開始する。

キーナイ川 川沿いの足場 川に降りる階段

2.6mミディアムヘビーのロッドに30ポンドラインを150m巻いたスピニングリール。その先に、昨年北海道で購入した銀鮭用の浮きルアーの仕掛けを付ける。これは大きな棒浮きの下に1.5mくらいのラインを付けて、それにタコベイトとスプーンを付けたものだ。
しばらくこれでキャストを繰り返すがアタリはない。そこで仕掛けを変えて、スピナーやスプーンでやってみるがこれもアタリなし。ターゲットはキングサーモンとシルバーサーモン。足下の岸沿いをソックアイサーモン(紅鮭)が次々に遡上していくのが見える。私より先に来てフライフィッシングをしていた人に、40センチくらいのレインボートラウトがかかっていた。明日は早いので、3時間ほど粘って引き上げることにした。

7月28日

今日はチャーターボートでキングサーモンを狙う。早朝3時に起床して、集合場所に向かう。集合場所は建物がなく、草原の駐車場なので分かりづらかったが、近所の人に聞いて辿り着いた。やがてガイドと同乗者がやってきた。驚いたことに同乗者の3人は日本人で、アラスカには何回か来ているようだった。ボートはガイドと4人の日本人を乗せて、朝靄の中を走り出した。

チャーターボート キーナイ川の夜明け さあ 釣りだ

この時期、キングサーモンはキーナイ川の河口近くから下流部で釣れているようで、川には夥しい数のボートがひしめきあっていた。

川にはたくさんのボート

今回の仕掛けは、30ポンドのラインにジェットプレーナーをつけ、そこから1mから1.5mくらいラインを伸ばし、その先にスピンNグローを付け、エッグループの針にイクラの塊を付けたものだ。これをボートから30ヤードくらい伸ばしてバックトローリングする。

バックトローリング

釣り場は潮の影響を強く受けているようで、調度上げ潮に乗ってサーモンが上がってきているのか、7時を前後して周囲の船では次々にキングサーモンが釣れ始めた。30,40,50ポンドくらいのキングサーモンだ。しかし、こちらのボートにはまったくアタリがない。全員くやしい顔に変わっていくのが分かる。ガイドのスティーブは、度々イクラを新しいものに取り替えてくれるがアタリは遠い。

ガイドのスティーブ

午後近くになり、一人の仕掛けをバックバウンシング用に変えることになった。ジェットプレナーの代わりに大きな丸いオモリを使い、このオモリで底をたたくようにして魚を誘い釣りするものだ。これが功を奏して、15ポンドくらいのキングがヒットした。型がいまいちなのでリリースになったが、ほどなく2度目のヒット。20ポンドくらいのキングだったが、これもリリース。3度目は25ポンドがくる。慎重に取り込み、キープとなった。嬉しそうに記念撮影している姿がまぶしい。
他の三人は、あいかわらずアタリがない。一人が仕掛けをバックバウンシングに変えてみたが、アタリはない。

河口は近い


幻のキングサーモン

3時過ぎ、私のアタリは突然やってきた。ロッドホルダーにセットしたロッドが激しく上下に揺れている。バイトだ。急いでロッドを握り、リールを巻く。リールはとても重い。リールをいくら巻いても魚は全然寄ってこない。これは今まで釣ったどのキングよりも、はるかに大きいものに違いなかった。

(同船の方からこの戦いの写真提供がある予定。お待ちしています。)

ドラグをかけていても、ズルッズルッとラインが出ていく。巻いては出て、巻いては出てを何度も繰り返す。ロッドは大きく曲がり、魚の引きに耐えている。でもこれはあがる。私も同乗者も全員が魚の大きさに興奮している。

ガイドはボートを操作して、魚を取り込みやすいようにしてくれている。やがてランディングネットを持って私の傍らに立った。とてつもなく大きな魚体が見えだした。婚姻色に染まり始めた大きな体。ガイドは50ポンドは超えていると叫んだ。後何回か巻けばネットまで寄せられる。

その時、ドラグが耐えきれず、ラインがガクン、ガクンと2回滑り出し、そして突然、私は緊張から解放された。魚のいない仕掛けが宙を舞っている。どうして外れたのか理解できず、放心していている私がいた。外の人たちもがっくりしている。後数10センチというところまで巻いてきたのに。

5時過ぎ、終了間際、隣の席の人にアタリがきた。この方は2日間ノーヒットで今日で3日目。その貴重な一発がきたのだ。私の失敗を見ていたので、慎重なやりとりの末に取り込むことができた。40ポンドの立派なキングだった。6時、ボートは船着き場に着いた。
私のキングサーモンフィッシングは終わった。

7月29日

朝8時にゲーリーの家を訪ねる。

ゲーリーの家Underwater 彼の新車

ゲーリーのボートでキングを狙うのだ。ゲーリーと彼の友人、そして私の4人を乗せたボートは川の上流に向かう。

さあ釣りだ

彼はキーナイ川のすぐ近くに立派な家を新築し、自宅から川まで木の階段で下りられる。そこには彼のモーターボートが係留されていて、シーズン中、彼は出勤前の2時間、このボートで毎日キングを狙っている。夢のような生活を実践している。

さあ釣りだ

今日の仕掛けは、クイックフィッシュ(ルアー)に赤く染めたイワシの半身を特殊な糸で括りつけたもの。

仕掛けの準備

始めて30分くらいで、シアトルから来ているゲーリーの友人にアタリがくる。魚の動きに合わせてゲーリーがボートを操作する。やがてネットの中に40ポンドのキングサーモンが収まった。統計的には4日で1尾というキングが、最盛期ともなるとかくも簡単に釣れてしまう。

慎重に取り込む

40ポンドのキングサーモン

私は11時半から町で人に会う約束があったので、11時にボートは一端戻ることになった。夕食をいっしょにすることを約束して、彼の家を後にした。会う場所はソルドットナB&Bで、そこは私がアラスカで最初に泊まった所だ。そこで日本から取材に来ているジャーナリストと会うことになっていた。インタビューというよりアラスカについての雑談を40分ほどして分かれた。彼らは翌日スワードに行くという。

夕食まで3時間くらいあったので、今回最後の釣りをしようと、一昨日のスイフトウオターリバーパークに行くことにした。せっかくソックアイサーモン用のフライロッドを持参していたので、これを使わなくてはと思った。狙いはレインボーとシルバーだ。

スイフトウオターリバーパーク

セージの9番のフライロッドに9番のフローティングライン、0番のリーダーでティペットは16ポンドのフロロカーボンライン。その先に自製のエッグフライ(これはレインボー狙い)を付け、リーダーの途中には大型のインジケーター、いわゆるルースニングだ。エッグフライを色々変えてみるがアタリはこない。あいかわらず足下をソックアイサーモンが遡上していく。時々私の姿に驚いたのか、傍らでジャンプするが、こちらの方が驚かされる。

9番ロッド

アタリが遠いので、数は少ないが遡上始めたシルバーサーモンを狙うことにした。フライをキング用に変え、フライが底をはうようにオモリを調整する。キャストを始めてしばらくアタリがなかったが、やがてインジケーターが動かなくなる。根掛かりということもあるが一応アタリを取ると、グイグイと引き始める。バイトだったのだ。でも何がバイトしたのか。

9番のロッドとリール、16ポンドのティペットではキングには勝てない。嬉しい気持ちと不安な気持ちに襲われながらリールを巻くが、なかなか寄ってこない。今のところ魚の引きには耐えている。取り込めるかもしれない。
しかし、この時、私は重大な過ちを犯していた。ディスクブレーキのドラグ調整をしていなかったのだ。ラインの繰り出しやキャスティングがしやすいようにゆるいドラグでやっていたのだ。アタリがあったときにドラグを締めていれば間に合ったのだが、そこまで気が回らなかった。

やがてリールが2回、3回と回転し、それをサミングで押さえつけた途端、針が外れた。瞬間、魚は7,80センチの魚体を翻して川の深みに消えていった。シルバーかソックアイか分からなかった。大物を釣れあげるには、まだまだ経験不足であることを痛感させられる。
かくして私の「夏」は終わった。

7月30日

朝5時前に宿を出発し、6時にはキーナイ空港に着いた。

早朝のロッジ前 早朝のロッジ前 早朝のキーナイ空港

エラアビエーションにチェックイン。エラアビエーション、アラスカ航空、ノースウエスト航空は提携しているので、それらの航空会社を順次使う場合は、キーナイで荷物検査を受ければ、アンカレジで荷物を再度預け直す必要はない。魚の入っていない空のクーラーボックスもいっしょに預ける。今回の釣行には、初めて日本からクーラーボックスを持参した。一部にクーラーを持参すると魚が釣れないというジンクスがあるらしいが、まったくそのとおりになってしまった。大いに教訓としよう。

エラアビエーション

今回、宿の出発時間を少しでも遅くしようとして、乗継ぎ時間を最短で設計していた。特にシアトルでの乗換え時間が1時間ととても短かったので心配だったが、何とか成田行きNW7便に乗り込むことができた。

混雑するアンカレジ空港

でも荷物は間に合わなかった。成田では、預けた2つの荷物のうち、空のクーラーボックスは出てきたが、もう一つのバッグは帰国後2日経ったがまだシアトルにある。中には衛星携帯電話が入っていて、次の客のために至急返却しなくてはならないというのに。本当に教訓の多いアラスカとなってしまった(このゴタゴタはさらに2日続いた。)。

なお、ソックアイサーモンの遡上はその後も順調で、7月31日午前零時(現地時間)から解禁になったと宿のオーナー、ケンが知らせてくれた。今回の私には、どうにもツキがなかったようだ。来年こそ!

リダウトマウンテン

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