2005年夏


はじめに

7月6日という出発直前に、通勤中の駅で背後から暴漢に襲われて、ヒラメ筋断裂という最悪の状況に追い込まれた。完治まで2ヶ月という医者の言葉を聞いたときには、気が遠くなる思いだった。トレナー経験80のある娘と共同の懸命の治療により、足を引きずりながらもどうにか今年も行って来ることができた。娘に大いに感謝している。

今年のアラスカは、目を内陸部に転じて、アンカレジからグレン・ハイウェイを東に300キロほど行った、カッパー渓谷Copper Valleyを流れるクルーティナ川Klutina Riverでキングサーモンなどを狙うことにした。カッパー渓谷は、カッパー川Copper Riverを中心に、グルカーナ川、ガッコーナ川などの大きな川があり、いずれも時期になるとサーモンが遡上してくる。(写真はニック・アームに注ぐマタナスカ川 渓谷への途中)

Matanuska River

7月10日

昨夜は11時近くに寝たにも関わらず、朝2時45分に起床。釣りの支度をして、今回の宿泊地であるグローブズ・キャンプ場の事務所に行く。バンク・フィッシングができる所で、かつ冷凍施設がある所という条件から、今回はキャンプ場のスリーピングルームを借りている。シャワーとトイレは共同で部屋はベッドだけという質素なものだが、釣りには十分だ。

Sleeping room

このキャンプ場はチャターボートも経営していて、6月のキングサーモンから10月のスチールヘッドまで営業している。私と白石さんの日本人2人組とアメリカ人3人組を乗せたボートは、薄明かりのクルーティナ川の急流をぐんぐん上っていった。

Going Upstream

後で聞いたところでは、この川は北米で4番目の急流だそうだが、このことが後日の釣りに大きく影響することになるとは。

約20分ほど上流に向かった後、ガイドのニクルは川の右岸側の流れが少し緩やかな所にボートを止め、川に突きだした木の幹にボートを係留した。いよいよ2年ぶりのキングサーモン釣りが始まる。しかも初めてのバンクフィッシングでキングを狙う。アタリはどう来るのか、果たしてランディングできるのか、興奮と不安がよぎる。

ニクルは昨日釣ったというキングの卵を赤いネットで包み、5/0くらいのオクトパスフックにつける。フックの上にはスピンNグローがついていて、その上には錘がつく。これを上流に向かってキャストし、餌が底を打つようにしながら下流まで流していく。後はひたすらこれを繰り返す。

Rigging for king Bankfishing in Klutina

途中、何回か餌を交換しながら5時間近く粘ったがアタリは来ない。少し前にアメリカ人の一人がレッドサーモンを釣り上げただけだった。そろそろ終了時間間近になり、今日はだめかなと思った瞬間、ググッと仕掛けが引き込まれた。Fish on !

竿は一気に満月のように曲がり、魚は下流に走る。急流にのったらバレてしまう。竿とラインの強さを信じ、ポンピングで寄せてくる。ニクルはランディングネットを持って川下に走る。取り込みやすいようにネットのある方にキングを誘導していく。捕った。

Kingsalmon in Klutina

25ポンドぐらいのメスのキングだった。全体に少し婚姻色が着き始めているが、キングの精悍で獰猛な顔つきは失っていなかった。この後、上流側のアメリカ人にも1尾きて本日の釣りは終了した。

Yes , Kingsalmon

7月11日

今日は、グローブズ・キャンプ場の対岸にあるクルーティナ・サーモン・チャーターズ のお世話でキングを狙う。朝3時40分に事務所に集合。私達二人とアメリカ人夫婦の4人の釣り人とガイドのジェイシーは、ダイアンの運転する四輪駆動車に乗り出発した。車の屋根には大きなラフトが積まれている。

Klutina rafting

クルーティナ川沿いにクルーティナレイク・ロードがあり、この未舗装の道を15マイル走り、ラフトを川に降ろせる所に車は止まった。ジェイシーとダイアンの二人でラフトを川まで運んでいく。初めて体験するラフティングしながらのサーモン釣りだ。

Our raft

ラフトの前列には夫婦が、中間にはジェイシー、後列には我々が乗り込み、ラフティングが始まった。かなりの急流と波立つ川面をジェイシーは巧に操って行く。モーターボートとは異なり、静かに滑るように、時には波を激しく砕きながら進んでいる。

Going Downstream

数マイル下り、右岸側の流れが少し緩やかな所にラフトを留め、釣りが始まった。仕掛けは、錘+コーキーCorkie+タコベイト+オクトパスフックで、餌は砂糖漬けのキングの卵を赤いネットで包み、針に刺してからゴムバンドで固定する。昨日と同じように上流に投げ込んでは下流まで流して行く。3時間近く頑張ったが誰にもアタリは来ない。

ジェイシーは釣り場を、さらに下流数マイル下ったところに変えた。そこは、昨日ニクルがボートを留めた所だった。釣り初めてすぐに、奥さんの方に強いアタリがあった。強靱な竿が満月に絞られ、頑丈そうな奥さんだが支えきれずに、今にも竿が持って行かれそうになる。ジェイシーが駆け寄り、二人で竿を握る。15分くらいの格闘の後、40ポンドを超えるキングがネットに収まった。

同じ場所を今度は旦那が攻める。ほどなくアタリがあり、15ポンドくらいのキングが釣れ、さらに白石さんにも来た。ジェイシーが時間を延長してくれ、私もと粘ってみたが、結局この3尾で終了となった。12時頃にキャンプ場に戻った。

7月12日

今まで朝が早かったので、今日はゆっくり起床。目の前のクルーティナ川でバンクフィッシングでソックアイ(レッドサーモン)を狙う。フリッピングで昼まで頑張るがアタリは来ない。今日は午後からバルディーツに行くので、適当に切り上げ荷造りをして出発した。

Going to Valdez

カッパー渓谷を過ぎる頃から、車窓前方の山々の頂や谷筋に雪が見え始める。チュガッチ山脈Chugach Mountainsだ。Tonsina GlacierやGirls Mountainの氷河が見え始めると、車はトンプソン峠にかかる。道は峡谷を進み、峡谷の至る所には氷河が溶けだして滝を作っている。峠から先の雪解け水は、Lowe Riverに注ぎ込み、Port Valdezに至る。Lowe Riverの水は大量の土砂が含まれ濁っていて、とても魚が住めそうには思えない。峠を過ぎれば、Prince William Soundの町、バルディーツValdezはもうすぐだ。

Girls mountain

宿のチェックインを済ませると、対岸のアリソン・ポイントに出かけることにした。かねてアラスカの釣りの掲示板に、そこでバンクフィッシングでピンクサーモンが釣れていると聞いていたからだ。アリソン・ポイントは、アラスカ石油パイプラインターミナルの手前にある。

そこに着く前に、岸辺で大勢の人が釣りをしている所に出くわした。車を止めて様子を見ると、岸からルアーを投げてピンクサーモンを釣っているではないか。岸からさほど離れていない海面には、何千尾ものピンクサーモンの群れ。我々も参加することにした。

Pinksalmon bankfishing

岸近くまでものすごい数の魚が回遊しているので、スレにかけないで釣るのは難しく、周りの人々はスレ掛かりで釣っている。我々は釣り人として多少の自負心もあるので、極力スレにかけないよう群れを少しはずしてキャストする。

ピンクはルアーを追ってくる。瞬く間に3尾を釣り上げたが、3尾目を釣ったところで竿が折れてしまった。旅行用の3本継ぎの竿だったので、継ぎ目の所から折れてしまった。白石さんが釣り続けているので、その間に魚を捌きジップロックに収める。ピンクの内臓を調べると、胃は退化したように細長くなっていて、中には何も入っていなかった。ルアーを追うのは本能なのだろう。

school pinksalmon Pinksalmon Valdez

翌日調べたところ、その釣り場の近くに孵化養殖場Solomon Guich Fish Hatcheryがあり、ピンクはそこに帰ってきたのだった。

7月13日

7時に港に集合し、出船した。シカゴから来たというアメリカ人一家3人との5人が、バーバラ船長のワイルドアイリス号に乗り込んでいる。Shoup GlacierやValdez Glacierなどの美しい山並みを見ながら、船は朝靄のPort Valdezを進んでいく。

On board Valdez Beautiful Valdez

Port ValdezはPrince William Soundの入り江の一つで、サーモンやハリバットの漁場となっている。バーバラは、ピンクサーモン漁の巻き網船を避けるようにして錨を下ろした。釣り開始。

Spin-fishing on board

スピニングロッドにルアーでピンクを狙う。一家がピクシー、こちらはメプスのスピナーを使う。あちらこちらでライズがあるのだが、水が透き通っているせいか、ルアーを追うもののバイトには至らない。何回か場所を移動したり、船をドリフトさせながら粘るが誰にもヒットしない。バーバラは、アリソン・ポイントの沖合に場所を移動した。

このあたりはLowe Riverの氷河による濁り水が流れ込んでいて、透明度が落ちいている。その分、ルアーに対する警戒心が薄くなるようで、船のあちこちでFish on ! が始まった。バーバラはランディングネットを持って船内を走り回っている。

12時までの予定が13時50分まで時間を延長して、14時に帰港する。5人で合計40尾を釣り上げた。私達は二人で25尾、極力メスを中心に釣ったのでオスは3尾ほどだった。体験的にはメスの方がルアーをよく追うような気がした。

Fish of the today Hanson family

16時30分にバルディーツを出て、途中給油の後、18時30分にキャンプ場に帰着した。

7月14日

今日は一日バンクフィッシングをする日だ。当初は、カッパー渓谷のいくつかの川を釣り歩く予定でいたが、目の前のクルーティナ川で1尾のソックアイも釣っていないので、このまま他の川に行くわけにはいかなかった。何としてでも1尾釣り上げたい、との一念で川に立ち続けた。

Klutina River

ゴム付き中通し錘は根掛かりが多かったので、地元で使っているペンシル型に変えた。水深が浅いので錘からフライまでの長さも短くした。色々流し方も工夫したが、なかなかアタリが来なかった。

それでも2時間くらいフリッピングを続けているうちに、根掛かりしたようにガツンときた。待望のアタリだ。慎重に取り込もうと無理にリールを巻かなかったのが失敗だった。ソックアイは一気に下流に走り、魚の重さに流れの速さが加わってバレてしまった。

それから2時間位して、またアタリがあった。針掛かりをしっかりさせようと何度もフッキングして、もう少しというところでこれまたバレる。3度目はさらに1時間位してからで、今回はそれほど走らなかったので、ランディングネットに取り込むことができた。60センチくらいのキングサーモンだった。しかし、なんと針は口ではなく口の脇。規則でリリースしなくてはならない。涙をのんでリリースした。

次のアタリは、錘が石を噛んだように動かない。根掛かりかと思い、竿を持ち上げるとラインが上流に動き出した。大きい。体験的にこういう動きをするのは大物だ。緊張しながらも竿とリールをしっかり持ち取り込みにかかる。果たして相当の手応えで、今度は下流に向かって走り出す。流れに乗ったらおしまいなので、ここは一番、竿が折れるまでこられえなくてはならない。少しずつこちらに寄ってきたので、岸に置いてあるランディングネットを取ろうとした瞬間、ポンと針が外れてしまった。本当にもう少しだったので、がっかりして虚脱状態にあるのが自分でも分かる。

夕方、といっても明るいのだが、終了間際に5度目のアタリがあったが、これも取り込むことができなかった。クルーティナ川が流れが速いので、ラインを出したら取り込めない。しかし、一昨日に無理をして竿を折っていたから、竿一杯にためることをためらう何かが働いてしまうのが情けなかった。

かくして11時間に及ぶ奮闘空しく、1尾のソックアイサーモンも釣ることができなかった。この教訓は、次回に必ず生かすことを心に誓った。

Dram Mountain

かねてから懸案だったソックアイサーモンの胃はどうなっているか。幸運にも白石さんが1尾釣り上げたので、さっそく解体した。ピンクサーモンの時と同様に、胃は細長く変形していて、中には何も入っていなかった。やはり遡上を開始すると何も食べないというのは本当なのだろう。

Sockeye Stomach

7月15日

朝7時30分から9時30分までの2時間、最後のバンクフィッシングをする。色々試してみるが、結局釣れなかった。キーナイ川の釣り方では難しい。川に応じて、場所に応じて釣り方を変えていく、頭では分かっているつもりでもなかなかできないものだ。

アンカレジで午後4時にキーナイの友人と会う約束をしていたので、11時にキャンプ場を出発する。アンカレジの市内に近づくと、かなりの靄が立ちこめているようで視界が悪くなってきた。バルディーツで読んだ新聞で、今年の夏は異常気象で、キーナイ半島のあちこちで雷による山林火災が発生していて、3日前にはスキラックレイクの近くでも大きな山火事が発生したそうだ。その煙が海風にのってアンカレジに押し寄せていると友人が言っていた。

アンカレジで有名なシーフードレストラン、Simon & Seafortsで久しぶりに充実した夕食をごちそうになった。Thank you Valerie !

With Valerie and Jake

7月16日

朝8時のアンカレジ発シアトル行きに乗り、いつものノースウエスト7便で帰国の途に着いた。シアトル・タコマ空港の搭乗待合所には、釣り竿を持った日本人が何人かとデナリ方面を観光してきたらしい中年のグループがいた。6月にはさほど日本人は見られないが、7月に入ると増えてくる。

準備に半年近くかけたアラスカ釣行も、始まってしまうとあっという間に過ぎてしまう。 今日はどこ、明日はどこ、釣った魚の処理、冷凍の依頼、容器はどうするかなどと段取りに追われているうちに帰国の日は来てしまう。日程に追われない釣行はいつ来るのだろうか。

What are you thinking ?

帰国してから

今回はキング1尾、ピンク15尾という釣果だったが、現地で冷凍してクーラーに入れて持ち帰った。ピンクの筋子も冷凍にして持ってきたので、それを解凍してイクラを作った。お湯に浸して粒を取り出すという方法に初めてチャレンジした。

This is IKURA

思った以上に上手にできたので、お酒と醤油に浸して1昼夜。ご覧のようにおいしそうなイクラの醤油漬けができあがり、サーモンフライといっしょに我が家の夕食となった。次回はガイドにお願いして、キングの卵ももらってこよう。

Delicious dinner

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