Kenai Fishing Academy


1 キーナイ・フィッシング・アカデミー

平成15年7月、私はこの年2度目のアラスカを訪ねた。7月12日から開校するキーナイにあるキーナイ半島大学(KPC)の夏期講座(キーナイ・フィッシング・アカデミー)に参加するためだった。

6月のアラスカ釣行から帰る途中で、たまたまシアトル空港で読んでいた「Fish Alaska」という雑誌に、キーナイ半島大学(Kenai Peninsula College)でフライフィッシングの夏期講座を開催するという記事を見つけた。月曜から金曜まで、大学校内の宿舎に泊まりながら、キャスティングやタイイングを始め、川の科学や魚の生態、ライフセービングなどを勉強するというもので、もちろん実地での釣り講習もあり、費用も宿泊、食事も付いてとても割安なものだった。

それまでフライ・フィッシングに興味はあったもののあまり得意ではなかったが、アラスカでフライ・フィッシングという魅力的な言葉に乗せられて、帰国すると同時に申し込んだ。

受講生はアラスカ州内は元よりアメリカ各地から来ていて、女性4人を含めて14人のクラスで、大勢のアメリカ人といっしょに大学の教室で朝から夜まで勉強した。

KFA group picture

2 釣りは学問だった

サーモンやトラウトの生態はアラスカ自然保護局の生物学教授が、水難の際の緊急救命は沿岸警備隊の職員、キャスティングやタイイングはアメリカのコンテストで優勝した人というように、それぞれのその道のエキスパートが担当し、ユーモアを交えて楽しい雰囲気で勉強することができた。

Tying lesson

大学の裏手にはキーナイ川が流れていて、午後の授業は川での実地講習。幸運にもレッドサーモン(ソックァイサーモン又はソッケイサーモン)を1尾釣ることができた。8番のフライロッドを満月に絞るレッドの引きは、今も忘れられない。

fireweed

座学で最も興味をひかれたのは魚の体長制限だった。日本では、体長16センチ以下の岩魚や山女は釣ってもリリースすると定められていることが多いが、アメリカでは全く逆。2004年の釣り規則でキーナイ川(下流域)では、50センチ以下のレインボーは2尾まで所持できるが、50センチ以上は1尾しか所持できない。レイクトラウトは、50センチ未満は10尾まで、50センチ以上は2尾となっている。

これは生態学の、体長が大きいものほど産卵率や産卵個体数が多いという研究成果に基づいている。確かに体験的にも、9月の渓流釣りで大物を釣ると腹に卵を抱いていることが多いが、小さいものはあってもとても小さいものだった。日本とアメリカどちらが理にかなっているか。

3 フライ・フィッシングの実習

講習4日目の木曜日には、ガイド付きボートでのトラウト釣り。コロラドから来ていた3人兄弟といっしょにボートに乗り込み、キーナイ川を釣り下ることになった。6番のフライロッドを使い、インジケーターを兼ねた浮きをリーダーの中程に結ぶ。フライはレッドサーモンのイクラを模したビーズ。フライはボートといっしょに下っていくので、まさにナチュラルドリフトとなっていた。

Float team

キーナイ川に限らず、アラスカの多くの川は堂々の雪解け水による浸食を受けて岸は急な上に、両岸のほとんどは私有地。そのため、バンク・フィッシング、岸から釣りをすることはとても難しい。ホールと呼ばれる魚の付き場へのアプローチはボートが最も有効かつ効率的だ。

時には川の中州にボートを止めて、あるいは浅瀬にアンカーを打って川に立ち込みながら、昼までにたくさんのレインボートラウトやドリーバーデンを釣ることができた。トラウトはキャッチ・アンド・リリースが基本なので、魚を傷めないように注意しながらすべて川に帰した。

Dolly Varden

4 熊だ!

最終日の金曜日は、朝からロッシアン・リバーでのレインボートラウト釣り。この川はレッドサーモン釣りのメッカとしてアラスカでも有名な川だが、熊がとても多いところでもある。サーモンは人間に好評だが、熊にも好評で、サーモンが多いところには熊もよく出没するらしい。

前日のニュースで、この川の上流にあるキャンプ場にむかうハイカーの一行が、熊に襲われて大ケガをしたといっていた。果たして、釣りを終えて引き上げる途中の川沿いで、対岸に小熊が2頭遊んでいるところに出くわしてしまった。小熊がいるところには母熊がいる。川の上流の方に目をやると、何と母熊が向こう岸からこちら側に渡ろうとしているではないか。

Look! Bear

こういうとき、地元の人はさすがである。近くにいた釣り人達は少しもあわてることなく、陽気に「Bear!」「We are here ! Bear!」と大声で叫びだした。私も真似して叫ぶ。熊にこちらを認識させて退散願うという戦法だが、人間だと気づかれて襲われないのか。

果たして、熊はくるりと向きを変えると来た道を戻り始めた。いつしか小熊もいなくなり、人々は何もなかったかのように釣りを始めていた。よく見ると彼らの腰にはピストルがあったり、ショットガンを肩から提げて釣りに来ている。でも彼らには単なるお守りなのだろう。

Russian River

この講座への参加は、釣りについての知識や体験を積んだだけでなく、多くの友人ができたことが、私の人生にとって大きな収穫だった。夏期講習の事務を担当したバレリー、大学のチーフマネージャーのゲイリー、インストラクターのデイブとは、現在でも交流が続いている。

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